ニベア

明治生まれの祖母はニベア一辺倒だった。弟は白雪姫のように色が白く頬と唇が赤く、いつでも湯上がりのような卵肌だったが、私はいつも煤けているねえ(背中じゃなくw)と言われていた。ニベア、ベタベタして嫌いだったが、祖母の塗り込めようとする手を拒否するほど気が強くなかった。あるいは乳液を意に沿わず塗られるぐらいたいした問題じゃない、と思っていた。

八十余歳のとき、犬を散歩させていて転倒、肘の骨を折ってしばらく入院した。見舞った私は祖母の産毛に気づき、気づかないふりをしてお喋りしたが、ああ、普段はちゃんとお手入れを気遣ってたんだなあと思った。私にとってそれは「女性らしくあらねば」という気概としかとれなかった。今は弱ってひよこのように無防備になっているのだ。

陽に照り映える、ふっくらした白い頬のかすかな産毛。剃らないと、化粧が載らない。祖母の産毛は退院後、肘に埋め込まれた見えない金属の様に、綺麗に無くなった。そして季節を経て、今年百一歳なのである!変化と言えば、昨年の百歳のお祝いにケアルームから贈られた志茂田景樹あるいは梅図かずお様の紫のフワフワしたかつらを大人しく被せられた写真をみた。彼女の産毛が生えてるか映えてるか、私も今は気づかない。元気で居てくれたらいいと思うが、八百比丘尼とかヤバいから…。あと、わたしは出来ればそのときはひよこのようになっていたいが、どうなるか。