「いき」の構造、対読書会の感想文だす。

 確かに難解でしたが、とても面白かった。一読したときはまず視点がずいぶん独善的だと思いました。(笑)特に芸術的表現の項。それは貴方のものすごくオリジナルな見方なんじゃないの?それは一般化出来るの?というような。勿論私の教養と勉強の不足であり、例を並べてみると一貫したセレクションの集合であることが判ります。しかし、「いき」の構造のエッセンスは、AとBの対立する組み合わせから発生するギャップの闊達な措定(文中何度も出てきますが、ある事物や事象を存在する者としてたてたり、その内容を抽出して固定する思考作用、と辞書にあります)だと思いました。作者は例の有名な六面体を、まっすぐでストイックな線で大胆に分割している。それはA点から、180度真逆のB点へワープのように華麗に跳躍した経路であり、交錯する面をプリズムとし合体させ鮮やかに反射しています。

 特に興味を惹いたのは、どちらかといえばネガティブな意味である「野暮」の中にある「自負」(P42)、「渋味ー甘味」を例にした、否定に依る肯定に至るまで「いき」を中間点として結果的に意味を反転させるクリティカルパスです。直線なのに反転とは、これまたねじれかメビウスの輪か…コンテクストに依って意味が変わるというのは線の引き方なのか、その種類であるのかと考えましたが、線を措定する文化そのものなのかな、と思いました。

 明確な二項対立の豊富な例から、私もついつい様々なAvsBを楽しんでいたのですが、当初からイメージとして持っていたのは、マンセル・カラー・システムです。色体系のひとつであり、色彩を色の三属性(色相、明度、彩度)によって表現するものですが、明度と彩度について真っ先に例3の色の項を当てはめてしまいました。曰く 例3)色は鼠色、褐色系の茶色、紺色→華やかな体験に伴う消極的残像、形状としては平行線、色調としては黒みを帯びた或は冷たい色調、という説明に、灰色を主とし、くすみという、白から黒への明度の変化/黒みを帯びた冷たい色調の中に抑えた彩度を、というような。白と黒への双方向の伸びに、生と死や陰陽を差し入れて考えてみるのも楽しかったです。霊の力、諦めに言及した箇所もありましたよね。(生きていく過程で)何かを捨てて得るもの。

 ただ、色相に関してはなかなか対応するものを考えられませんでしたが、ここ数日でやっと、もしかしてこれが文化の違い…かも?と思うに至りました。世迷い言かもしれませんが、欧州にある似た語として、ダンディズムに言及している箇所があります。これは男性固有のものです。ハンサムな彼女、なんて漫画のタイトルにもありますが、これは例外として…ダンディズム/ハードボイルドには女性を寄せ付けないものがあります。しかし「いき」は異性に対する媚態というのが当初から繰り返し語られているところです。苦界の女性を例にするケースが多いですし。

 ここで、全く話はそれますが、苦界の女性の呼吸にも「いき」がある。タイムリーですが人気ドラマ「JIN」(海外でも放映されているでしょうか)の「野風」というキャラクターです。知性教養と美貌を兼ね備えた気位の高い花魁で、密かに患っている。主人公の仁という医者を慕っているが、彼には武士の娘でやはり美しく気だても育ちもよい「咲」が無二の助けとしてそばにいる。結局彼女は身を引いて、身請けをした費用で仁を助け去っていくのですが、彼女の生き方はまさに「いき」、「垢抜けして(諦)、張りのある(意気地)色っぽさ(媚態)」を象徴したものだと思いました。

 ちなみに私、漫画もドラマもみたことがありません。