ジム・クレイス

「死んでいる」。タイトルに惹かれて借りて、一気に読んでしまった。冒頭でこの夫婦は殺されてしまう。海岸で。野ざらしになり、やがて還っていく。死から始まって二人の初めての出会い、娘の探索行が続く。その間に、心臓が最後の血のひと雫を送り出して鼓動を止め、そこから腐っていく様を静かに織り込んでいく。

そこには大げさな哀しみなどない。一見そんな感情には無関心のようだ。愛の反対は嫌いじゃなくて無関心だ、と誰かが言っていたから、無心と言った方がいいかもしれない。冷徹な筆致ではない。ただその稜線が柔らかく崩れ、虫や小動物が群がり、食べて、生まれて、それを雨が潮が洗い流す様を、静かに描いている。そのままでも良かったけど、最後に娘が見つけて、送ってくれる。

その涙も塩辛く。