明度と彩度と文化と女心&職人としてのコダワリ?

<素材>十歳と四歳の姉弟。姉は小麦色でドングリ目の天パお下げ、一見シスター風だけどはにかみやさん。弟は線が細く色白で癇が強いサラサラヘアの美少年。<パレット>1基本の肌色、2赤を混ぜたやや濃い色(陰用)、3もうワントーン下げた三色を用意。<制限時間>三十分。

常々時間制限もあって肌色は1と2の二色で全ての人間に対応してきたが、一度中東の人を描いたときに大失敗して、それ以後は念のためもうワントーン濃い肌色を用意することにしていた。その日私は、満面の笑みで期待に胸を膨らませ席に着いたその少女の目の輝きを消したくないと思い…

思い、小麦色の肌を活かすべく2と3で対応したが、デッサンの段階では身を乗り出して見ていた彼女が着色の様子をみた途端椅子に深々と沈み込み爪をいじったり、それが目の端に映る。お母さんがあげたスナック菓子もフォローのように感じる。パリパリした咀嚼音がやけに響き、絵の中の女の子が赤鬼のように見えてくる。顔を上げられない。あ!小指に着いた汚れがよりによって鼻の上に移ってしまった!白、白、白を1に混ぜて鼻の上に載せたら、にじみが!体温が上がる。

その後の事はあまり覚えていない。気がついたら透明フィルムに出来上がった絵を入れていた。弟はおおた慶文だが姉は麗子像みたいに描き込まれていた、一枚の中に。やはりまともには女の子を見られず、お母さんに「あの、お姉ちゃんはちょっと塗りすぎてしまいました」と言い訳をした。「いえそんなこと、ありがとうございます〜」と御礼を言われてタイマーをみたら、四十三分になっていた。絵を確認している女の子を見送りながら、「今日の自分、\(^o^)/ オワタ 」と思った。しかし実はこの後恐怖の残業が待っていたのだった。