彼岸花

昨晩は小津の「彼岸花」を見る。定番の嫁にやる娘の話だ。この典型的昭和の愛情表現に不器用な父親像というのが私は大嫌いらしく、この作品においての主役は特にあの可哀相なことこの上なく卑怯なほどの笠置衆ではなかったので素直に腹を立てられてある意味満足。笠置衆はダメ…私が何を言っても「そうか」とうなだれるだけだものきっと。しかしこの重役である父親はてらいなくワガママで大きな子供でしかなく、嵌められてお膳立てをされてようやく結婚を許す。周囲、特に、よく出来た・控えめで・優しく・賢い妻と優しい娘たちの協力があればこその体面にふんぞり返って憚ることが無い。お前は殿様か。いや、本当は感謝している、そんな雰囲気は描かれている、でもキチンと言葉にして伝えられなければ何にもならない。そうでなければ一生恨まれる覚悟でも嫁にやらない気概を見せてもらいたい。例えば「結婚は許さん。どうしてもというなら俺の屍を越えてゆけ」くらいバシッとだ。そうしたら私も堂々とその脆弱なプライドを粉砕出来る。尊敬はそれからだ。

しかしこの良妻賢母を体現したかのような妻のフォローっぷりも信じられない。「お父様はちゃんと貴女のことを考えてるわよ。だから興信所も頼んで調べてくださったのよ」ってどうよ。